誰しも心のなかに…

なんだかいつも文章が無駄に長くなってしまうので、もっとたわいもない話も取りあげんとするものである。

 

パラダイスバード BUNCH COMICS (バンチコミックス)

パラダイスバード BUNCH COMICS (バンチコミックス)

 

 

先日の記事で『マイリンク幻想小説集』について書いたが、そのなかに「蓖麻子油」という語が出てきた。私は最初これを知らないものと思い、手を止めるのは癪だけどもどうにも収まらないのが気持ち悪くて調べることにした。しかし本を閉じようとした瞬間ふと読みが思い浮かんだのである。これは『楽園通信社綺談』で知った言葉じゃないか。そういや文脈を見ればたしかにその「用途」も同じじゃないか。しかしまさかこんな漢字表記だったとはねえ。

私は最も好きな漫画家を尋ねられたところで絞りようがないほど迷うのだが、強いてひとり挙げろというのなら間違いなく佐藤明機さんの名前を出す。寡作でマイナーなため質問者がまず知らないであろうし、少しでも認知度を高めたいためだ。私が彼を知ったきっかけは『パラダイスバード』の発売時で、これが出たころは他の作品は手に入りにくかったが、逆にいまや『楽園通信社綺談』と『ビブリオテーク・リヴ』の合本復刻、初期作品集『リプライズ』、そして新作『パラダイスバード・クロニクル』を手に入れやすくなっている。あのゆるいけど本格感のあるSF、妖術の建築、ミリタリ落語、電脳御伽草子など様々に形容可能な深奥の世界を知らない方々にもぜひ覗いてもらいたい。

ところで佐藤作品のなかで1番を問われれば、悩んだ末に『パラダイスバード』を推す。はじめて買った作品なので思い入れの深さはひとしおだ。実はこの本のうちの1編に、私の処女作『異神の夏』の下敷きというか着想のもとになっている話がある。一見すると不思議なノスタルジーに溢れた作風だけど、読むたびに新鮮な気持ちになり読むほどに味が出てくるので、そのうちに自分の創意も刺激されていたのかもしれない。口下手な私にはなかなかその良さを伝えられないけれど、もし好みなどを質問をされれば今後も先述のように彼の名を答えてゆくだろう。

余談だが私の好きなあるシナリオライターペンネームは佐藤明機作品に由来があるそうだ。

 

今日11月25日は三島由紀夫の自決の日で、いわゆる憂国忌だ。父はこの日のことをよく覚えているという。それは別に三島本人に注目していたからではなく、ちょうど当時その日が癌で入院して手術を終えた祖母の退院日と重なり、ラジオでしきりに三島事件のニュースが流れるのを聞いていたからだそうだ。

祖母はこのときかなり危ない状態に差し掛かったが回復し、その後は今年2月に92で亡くなるまで介護のかの字も心配させないまま元気に生きた。動員先で名古屋空襲に遭う(人がいっぱいで入れなかった防空壕を後で見に行くと全滅だったとか)などたいへんな人生だったには違いないが、優しく物腰は柔らかで、でも強い心の持ち主で、とても立派な人だった。帰省した折など、65年も一緒に生きてきて急にひとり残されることになった祖父の寂しそうな姿を見るのは私としても心が痛む。

ただ思い出も残る。私が進学するために家を出る日の早朝、まだ雪降らしのぶ厚い雲が空を覆うせいで真夜中のような暗さと厳しい寒さに包まれるなか、しばしの別れの挨拶をするために祖父母の部屋を訪ねると、祖母が私の手を握ってくれた。もうあれからだいぶ経つけれど、そのぬくもりはいまだに忘れられない。私が幾度となく深刻に挫けそうになりながら毎回毎回立ち直ることができたのはこのおかげである。

そういえば三島由紀夫というともうひとつ。まあきわめて胡乱な話なのだが、父親の世代にはある逸話が流れている。高校の教師に三島の学習院時代の同窓がいて、三島が首席だったときの次席で恩賜の銀時計を拝受したとか、彼の小説に名前だかイニシャルで出てくるとか(たぶんSとかになるのではなかろうか)、もろもろ伝説があったそうな。私は『潮騒』しか読んだことがなく他に検証もしたことがないのでどうにも信じられないし、本当にあんな田舎にそんなすごい教師がいたのだろうかと疑念しかないのだが、なんとなく気になっている。

 

昨日は友人の誕生日後祝いと私の誕生日前祝いをした。厳密ではないけどちょうど間くらいが休日だったので、おしゃんてぃなカフェやらオイスターバーやら何軒もめぐり、いろいろと飲み食いして楽しんだ。私は私らしく本を2冊プレゼントし、友人は私に馴染みの日本酒をくれた。こういうのは下手に高い銘酒をもらうよりもよほど嬉しいものである。

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ちなみに下の写真は月末恒例の新品書籍購入。注文直前に知れた面白そうな本など、今回はセルフハッピィバアスデヱと称して単価の高めな本もありまする。

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結局長たらしくなってるじゃないか…(呆れ) ただ最後にひとつ。誰しも心のなかに悪魔を、高カロリー食に関してなにかと理屈をこねこねして正当化しようとするあの白黒毛の猫熊の類を住まわせているのではないか。節度を忘れさせたり、誘惑に導いたり、とにかくわれわれを唆してやまないアレである。めえぜるさんの場合、キリがないから月例の本の買い物はこれだけにしておこう決心するつもりでも、なぜか次の日にまた数冊購っていたりすることがしばしばある。さすがに近頃はそういうことも少なくなってきたが、私が我慢しようとすると厄介なことにヤツはすかさず妥協点を見つけてくる。古本市などに通りがかろうものなら私のなかの悪いパンダは元気よく叫ぶ。「文庫本なら小さくて場所を取らないし安いからいくら買っても大丈夫だね!」…実際それがどれも300円〜500円とかで売ってるからタチが悪い。だけどいい本が手に入るとやっぱりいいもんなんですよ。本当に、本当に、本当に。

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