続・きわめつけ

昨日のブログを書き終わり、よしそろそろ寝ようという時分のことだった。玄関口の棚の死角からピロっと紙片の角のようなものが覗いている。なんだこれと拾いあげてみると、それは不在連絡票であった。差出人欄には出版社の名前がある。あの本だ、と。しかし発売日は4月初頭のはずなのでこれには嬉しい驚きを覚えずにはいられなかった(配達員の方には申し訳なかった)。どうやら昨日が著者の命日だったようで、納得した次第である。当日中に受け取ることはできなかったけれど、出版人の粋を見た。ということで届いた書籍はこちら。

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私は椿實をこれから読もうとしている人間なので、いま語れることはほとんどない。ただいつからか、日本の幻想文学のなかでも独特の地位を持っていた作家ということで気になっていた。それに彼を評価している面々——稲垣足穂三島由紀夫柴田錬三郎澁澤龍彦ら——からして実によいではないか。この時点で確信できるものがある。だからといっては安易なのだが、とりあえずすでに刊行されていた『メーゾン・ベルビウの猫』は買っておいたのが去年あたりの話。

そして棚にしまっているうちに今度はこの『メーゾン・ベルビウ地帯』の同版元からの発売が決まり、ついに作家の業績を網羅できるようになったのである(表記は現代的になっているが私としては許容範囲のこと)。『猫』のほうはいつも通り書店で求めたが、今回は出版社に直接予約をして購入した。その理由はいくつかある。

ひとつには、本書の初版に印字される番号のうち比較的早い数字のものを入手可能であるとの告知を得たことによる。こういうの1回やってみたかったのだ。しかし実はこの報せを受けた時点では予約の決め手にはなっていなかった。悩みに悩んだ。発売の予定日は迫る(少しだけ伸びてくれて結果的に助かった)。

しかしあるとき続報がくる。これこそふたつめの理由なのだが、前作からも今作からも漏れているが発見時期的に編集作業に間に合わず収録されなかった作品が8頁ほどの冊子の特典として付いてくるというのだ。決定打。オタクたちなら、きっとこの気持ちをわかってくれるだろうと勝手に願うものである。こういうのに弱いのがわれわれの性——SAGA——なのだ……。

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そして2作品を並べてみるとこのような感じ。

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造本からして趣味心をくすぐるし、素晴らしい仕事のあらわれとしか言いようがない。安くはないのだが、これだけのこだわりを感じられると微塵も損をした気分にならないものだ。こうして内容面でも装釘の面でも手の込んだ書籍を発売してくれる会社があるうちは、われわれのような人間(どんな人間だ?)は大丈夫だ。幻戯書房さん、やはり好きだな。たくさん持ってはないけれど、たまにどストライクを出してくれる。そうそう、このようにね。

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昨日も触れた北園克衛『白昼のスカイスクレエパア』もこの版元から出されたもの。自分でも改めて眺めてみると、なんとまあ趣味がわかりやすいことだろう。でも、なにか足りない気がしなくもない。瀧口修造かな? あれも欲しいのだが、残念、しばらくこの手の本を買うのは控えねばならない。その期間もなるべく長いほうがよい。

それでも、逆らうまでは行かなくとも時流に乗らない出版社や、時代の片隅で流行とは異なる文脈に目を向けられる愛書家の人びとを、勝手に応援する人間ではあり続けたいな。

 

そしてうちのイカしたメンバーたちもまた歓迎してくれているようす。よかったね。

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