モームとかいう作家

某所のブッコフに立ち寄ったらサマセット・モームの『カジュアリーナ・トリー』と『コスモポリタンズ』が売っていて、古本はしばらくいいやなどとかましていた口で罪深くもまた買ってしまった(そもそもなんで古本の店に入ってるんですかね……)。しかし動機がまったくないわけでもなく、実はこれでちくま文庫から出ているモームの本が揃うことになるからだった。

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モームだけではなくて見にくいのが恐縮だが、左から3番目の『アシェンデン』から『片隅の人生』までがそれで、ここに加えて別の文庫も3冊ほど。あといくつか持っていたはずだけど探して出すのが面倒なので。新潮文庫のアシェンデンは読んだ覚えがあるからどこかにあるはず。昨日今日あたり持ち歩いて読み進めていた本も実はモームの戯曲であるから、なんだかんだ集めたり読んだりしていることになる。

しかし正直に告白すると、モームはわりと好きな作家には違いないが、彼の作品を読んでそんなに長くはない。数年前にやはりちくま文庫の『昔も今も』というマキァヴェッリが主人公の作品を読んだらあまりに面白すぎてたまげたというのが出会いである。

彼の作品のどこが好きかを述べようとすれば時間が必要になるので今回は詳しい言及を避けるが、きつめの皮肉はあっても高尚まで思い上がることなく、ことさら媚びたような低俗まで堕すこともなく、なにより面白さと読みやすさを両立する取っつきやすい作品が多いし、作者が自分のために我を貫いて書いたような作品でさえなにか読者に切実に響かせるところがある点などは魅力的である。

思えば、専門的というか研究のための義務的なものではない普通の意味での読書、いわば純粋に楽しむための趣味としての読書が気負わずにできるようになったのは、だいたいこの本を読んだあたりの時期からだった気がする。私が比較的幅広く、特に海外文学方面に興味を向けられるようになったのは、少なくともその一部おいてはモームのおかげだったと言えそうだ(あと『デデ・コルクトの書』とか)。

戦後の一時期、本人の来日などもあってか全集が出るほどの人気を誇ったらしいモームだが、それに比べればさすがにすっかり落ち着いてしまった様子でありながらも、近年になって小説や戯曲の新訳ないし初訳が出ているし、古書も安くて容易に手に入る。私のような遅れてきた読者にはまったくありがたい話である。

ところで、このモームとかいう作家はめえぜるさんにとって非常に重要かもしれない。彼の経歴を見ればわかるのだが、この人は諜報機関の情報工作員、つまりスパイだった。有名なグレアム・グリーンイアン・フレミングもそうだったし、あと私の大好きなミュリエル ・スパーク(※1)も諜報機関に従事していた経験がある。なにが言いたいかといえば、彼はMI6にもバリバリ協力していたのだから、GI6こと聖グロリアーナ女学院情報処理学部第6課にもモームという構成員がいてもまったく不思議ではない。ただそれだけのことである。

 

 

(※1)スパーク女子に関しては以前いくつか「どくしょかんそうぶん」みたいのを書いていたので、よければ読んでみてください。

書訪迷談(7):恋色ミュリエルスパーク - ネオ・オスナブリュック歳時記

書訪迷談(8):だからよ、忘れるんじゃねぇぞ… - ネオ・オスナブリュック歳時記

書訪迷談(9):先生はつらいよ - ネオ・オスナブリュック歳時記