ガルパン劇場版ノベライズ所感

 

ガールズ&パンツァー 劇場版(上) (MF文庫J)

ガールズ&パンツァー 劇場版(上) (MF文庫J)

 
ガールズ&パンツァー 劇場版(下) (MF文庫J)

ガールズ&パンツァー 劇場版(下) (MF文庫J)

 

 

いまさらという感じだけどガルパン劇場版の小説を文庫で読んだ。やはり好きだな。私はTVシリーズも観るより前に劇場版から参入した勢なので思い入れも深い。

もちろん媒体も違えば形式も異なるわけで、あれだけ圧倒的な映像として提示された作品が文章と少々の挿絵で描写されなければならないことによるギャップ、文体の好みの問題、さらにそもそも劇場版を観た人間に向けであるなどの問題はあると言えるかもしれないが、そのへんは大した気にするべきものでもないと思う(別に私は批評家ではないし)。ちょうど1年ほど前の記事で『かくも長き不在』の脚本に関する感想を書いたときと同様(書訪迷談(5):デュラララス!! )、むしろならではの楽しみ方ができるのではないかという立場に私は両足を置いて考えたい。

概観してみるとストーリーは徹底して原作準拠、セリフも基本的にそのままで、一部にキャラクターを掘り下げる程度に少々の追加があるのみなので劇場版の情景は想像しやすい。その一方で全体的に新規シーンや背景説明も多くなっていて新鮮である(明かされた根拠づけなどに納得できるかはともかく)。個人的には、戦車や歴史や作中設定の小ネタなどに関する豊富な注釈が巻末にまとめられていることに驚いた。地の文のほうにも多々挿入されている説明的文章からはみ出さざるをえなかった知識の置き場のようにも見えるが、なかなか参考になる資料である。あくまでガルパンの資料として有用ということであって、これだけに頼らないほうがいいような気もするけれど。

全体を通して、ほんの細かいところでうーんとは思いながらも、あまり解釈違いはなかったように感じられる。そもそも確固たる本編があるのだし、いくら考証担当による執筆にあるにしても無茶なことはできなかったはずである。というかほとんど映画として一定の時間に収めるにあたり開示できなかったり言語化する必要がないと判断されたりしていた既定の設定が、媒体の変化で日の目を見る機会を与えられたにすぎないのではないかと思う。戦車に関する細かい情報などはまさにそういう類のもので、画面では攻撃が効かないとか簡単に貫通したとかいうことが視覚として認識されるだけでも、小説版ではたとえば「この戦車の性能だとあの敵戦車の装甲は何百mくらいまでなら撃ち抜ける」というような情報として頻繁に現れてくる。劇場版が隙なくストレスなく非常にテンポの良い濃密な作品だっただけに、こうした過剰な情報にくどさや抵抗を感じるのも当然といえば当然なのだが、逆に言えば『ガールズ&パンツァー』という作品で説得力あるものとして戦車や戦車戦が描写される際、その説得力を裏付けている特にマニアックな部分のもっとも濃縮し沸騰した部分の湧出先が書籍であったということを表しているというアレなんではないか。まあ知らんけど。少なくとも私は嫌いではない。

ともかく、以下、気になったところを書き出してみる。自分で読んで確かめたいとか、たぶん私の解釈も入るかもしれないのでそういうのが気になりそうな方がおられたら、気をつけるか避けるかしてもよいかもしれない。あと思いついた順なので作中の時系列通りじゃなかったり、若干記憶違いもあるかもしれない。だからどのみち自分で読んだほうがいいかもしれない。

 

・辻廉太さんも中間管理職的に大変な立場でかわいそうに思えてくる。日本戦車道の強化とか、大洗廃校再決定の裏にはいろいろあったのだね。

・エキシビジョンマッチ開催の経緯がかなり丁寧に描写されており、組み合わせの決め方にはツッコミどころもあるが「はえーなるへそ」という感じ。

・島田流本拠は群馬県。知らんかった。

・島田流は門下生はかなり多いらしく、ニンジャ要素から海外人気もある。けど世間ではもっぱら戦車道の宗家として認知されてるのは西住流なので、そこに不満があるらしい。別の部分で優花里がその特徴と島田流が広まりにくい理由をさらっと語っていて流石だと思った。

・黒森峰の飛行船。さすが西住家。別の学校だが旧倉庫というのは私も自分の創作で使っていたネタなので、こういうところでその存在を書いてもらえると大いに勇気づけられて使いやすくなる。

・しほさん、鍛錬のためとはいえエリカを唐突にお泊りに誘う。これが西住流か。

・しほさんと千代さん、仲は険悪じゃないだろうし、試合後のやり取りを見ればなおさらそう思えるわけだけど、もっとチリチリヒリヒリしたなにかを感じないか? 絶対「しぽりん」とか「ちよきち」とか、そういうのの以前に絶対なんか因縁あるだろ君ら。

・大学選抜戦の時点でエリカ車には黒森峰で2番目に腕のいい砲手が乗ってるらしい。一番手がまほ車にいたとしたら、無限軌道杯ではどうなっているのだろう?

・大学選抜にはアズミの高校の同級生もいる。名前も似ている。

・カール自走臼砲の発射想定位置を計算したのはナオミとアッサム。好き。

・アッサムも情報不足でデータに誤りを出してしまうことがある。うっかりこういうことしちゃうからアッサムはダージリンに勝ちたくても勝てないんですね(虚空を見ながら)。そこがええねんな。好き。

・ナオミはかわいい。知ってたけど。好き。

・イギリスの人気人形劇「せんしゃトータス」の説明が無駄に詳しくて笑う。

・自分の戦車だけ生き残ったカチューシャが思わずノンナに呼びかける場面があっていたたまれなくなった。あとレオポンさんとエリカ車と連携するときセリフに追加があるんですけど、ちゃんとスリップストリームの原理を説明してるんですよ。カチューシャらしいかはさておき、さすが隊長格というか。だから「スリップするの?」とか言ってる場合じゃないぞエリカ、頑張れよ。いまや黒森峰の隊長なんだぞ。

・ウサギさんチームがセンチュリオンに撃破された後に澤梓がおこなった警戒通信は、実は撃破後なので誰にも届いていなかった。私が不勉強なだけかもしれんけど、まじでこれは知らなかった。

・試合決着後のアキちゃんのセリフ、「(前略)つまってるね・・・・・・」……そんなにテンション低かったかな……もうちょっとエクスクラメーションマーク付いてもいいような語気だった気がするけど......。

・千代さんも「上」の人たちも、大洗連合で活躍した世代が大学に来ることを楽しみにしている。もう最終章の後でいいから大学編やっちゃえよと思う(最終章とは)。

 

・聖グロ勢がたくさん描写されててハッピー。オレンジペコもアッサムもルクリリもローズヒップもきちんと本編以上にキャラ付けされている(ニルギリが名前さえ出てこなかった点だけは残念だった)。そしてとりわけ驚くべきはルフナにわりと存在感があること。気のせいじゃなければたしかに喋っていた。けどそんなに強くキャラクタライズされているわけではないので、もし自分の作品に出すなら好きに人物造形するのが吉かもしれない。

ローズヒップの「知波単にも撃破出来たなら、私にもやれるはずですわ!」発言にはなにか奥深い趣がある気がする。学内では異端児のローズヒップにも無意識にこういう発言をさせうるなにかがこの学校にあるというか、聖グロの生態の解明につながる。なにが?

・ナオミが撃破して白旗を上げてるパーシングに追い打ちで砲撃を仕掛けたローズヒップダージリンが叱責したらしいのだが、これはなにか奥深い趣が(略)。

・GI6についての記述はアッサムの人物紹介のところのみだったから少々残念だったけど、相変わらず好き勝手できると都合よく考えている。

・聖グロの学園艦には森がある。私は自作で広大な公園とか森とか廃棄された旧戦車倉庫とか(あまつさえ幽霊まで)書いていたので非常に安心した。まあ公式に描写があろうとなかろうと、やるときはとことん勝手にやるというのがわれわれなんですけどね。というかドラマCDでサンダースの学園艦内に大規模な上陸作戦用の施設が出ていた(ような気がする)ことを考えれば、本当になんでもアリだと思う。まずニーダーザクセン大学を卒業した者だけが石を投げなさい。

ダージリンの暗躍ぶりが劇場版本編で描かれていた以上にすごい。自らの思惑を楽しみながら、みほのことをものすごく気にかけて大事に思ってる人格者でもある。「全体把握に優れる」みたいな表現も出てきて、公式的な設定でもダージリンのスペックは相当高い(ノベライズは純公式というより準公式なのかもしれないが)。ちょっと面白い性格してるのでわりとネタキャラ扱いされがちで、それは仕方ない側面もあって私自身楽しんでる節がなくもないけど、ダージリンは根本のところでは優秀な戦車乗りであり学業でも「政治」面でも切れ者であるはずだという私の解釈に沿う方向性で一貫していたのがとても嬉しい。あとね、最終章第1話で桃ちゃんの留年危機を知ったオレンジペコが「ダージリン様『は』留学が決まって良かったですね」と言ったことに対して「ダージリン本当は馬鹿なんじゃないか」みたいなことを邪推する一派が相当数おられたが、マジで数少ない私の解釈違いインシデントですからね。半面、ダージリンが優秀な存在として際立てば際立つほど、私のような優秀じゃない人間には描写しがたい存在となるというジレンマもあります。はい。

・重ねて言うと、ダージリンはマジでみほのこと大好きでめちゃくちゃ買っている。角谷会長に対する「戦車道が変わるかもしれない機会を、本当に目にすることが出来るなんて」って発言からはダージリンが聖グロらしさを遵守する伝統主義者であると同時に改革や先進性も求めている側面が窺われて非常に解釈の一致でした。まさに私の文化でした。「お陰で卒業後の予定が決まりましたわ」ってのも、説明がないから留学のこと話してるのかそれ以外のこと話してるかわからないけど、さらっとデカい発言をしたように思われてならない。みほからお礼を言われても「それはあなたの努力」だと、やはり自信を持つように褒める。しかもみほ率いる大洗に負けてないことをきちんと自覚したうえで「あれは練習試合だから」と公式戦での再戦を望んでいる。別れ際の「次の試合を楽しみにしているわ」って、無限軌道杯の決勝の相手は聖グロ説が囁かれるのもわかる気がしてくる。私は聖グロ贔屓だからそれを望んでるけど、エリカにも頑張ってほしいから複雑な心境ですわ。

・でも西ダジはあるよ。