書訪迷談(5):デュラララス!!

 

かくも長き不在 (ちくま文庫)

かくも長き不在 (ちくま文庫)

 

 

来月、なんとロバート・マッキー『ザ・ストーリー』の新訳が出るという(題は若干異なる)。私も何年か前これがブッ○オフに1500円くらいで売られているのを見かけたとき面白そうなので買ってみたが、調べてみるとビジネス系の特殊な版元から非一般流通の形態で出されていたものらしく、その後は品切れになってからわりと高騰していた本である。同じ著者の『ダイアローグ』もこれありきという印象を受けたし、彼の主著が求めやすくなることは謹んで言祝ぐべきであろう。改めて買う予定はないけれど。

ちなみにめえぜるさんも面倒に所有欲をこじらせたオタクだが、持っている本のプレミア的価値が下がることなど決して、決して残念に思わない(血涙)

それはいいとして、いわゆる二次創作で小説を書くよりもずっとずっと前、私はほんの一時期だけ中途半端にだがこの手の本に手を出していたことがある。だからといって理解する頭も容量もなく、後年実践するにあたり活用できるほどの知識の定着もなかったが、そういう実用の枠を超えて相応の感銘を抱いた書籍もあった。それが『ザ・ストーリー』、橋本忍『複眼の映像』、そして鏡裕之美少女ゲームシナリオバイブル』の3冊だ。いずれも創作における産みの苦しみと同時にその豊かさを教えてくれて、なにより文字表現の多様な可能性を示し、そもそも読み物としてかなり面白い。

映画脚本の執筆やゲームのシナリオライティングは厳密に見れば小説の作法とは異なるだろうけど、共通する点でもしない点でも学べる気がするのは、素人解釈とはいえそれほど大きな勘違いでもあるまい。少なくともそこで柔軟かつオープンな心向きでいられるかどうかは重要だと思った。まあ、そういうところを私自身活用できた実感は持てないままだ(いつも行き当たりばったりで自分の作品にいかなる方法論も適応できた試しがない)。

 

今回取り上げる『かくも長き不在』は一般に映画の題名として知られている。公開当時の日本でも評価されながら長らくDVDやBDが出ていなかったものが、満を持して今年の3月に発売されたという作品だ。いやはや、古きよき名作の新規媒体化とはなんと言祝ぐべきことであろう。気になりつつも残念ながらまだこの映画を観れていないが、文庫版のシナリオ本を(なぜか2冊)手元に持っていたことが不幸中の幸いなのか純然たる幸福なのかはともかくとして、私はまた別の形式でこの話に触れる機会を持ったのだ。読み始めてみるとするする進む。そして想定よりかなり早く読み終わってしまう。私は思った。

ええ……こんな……なんて切ない話なの……こんなこと、私は……なんて、なんて言えばいいのわからない……。

そう、結論から述べれば、読了直後はこんなふうだった。いい歳こいたおぢさんがかように感きわまる姿など目も当てられないのだが、切なさのなかにきわめて美しいものを見た気がするなど重ねて言えばなおさらであろうか。でも実際にそう感じたのだから仕方がない。本当に切なくて、本当に美しい、人間的感情に満ちた、素敵な物語だったんだもの。

映画のほうは100分にも満たない尺だから、じかの音響と映像の迫力も相まって、この濃縮されたストーリーがおそらく大きな感動を与えたに違いない。優劣をつけてはいけないが、そこはやはり媒体の違いで本には及ぶべくもないところだろう。しかしシナリオの強みというのはあって、こちらでは執筆陣の思惑や実際には採用されなかった場面などの細かな文字情報がふんだんに残されており、だからといってテンポが阻害されるとか贅肉が増えるということもなく、やはり素敵な物語の豊かでたしかな表現になっているのだ。重要な場面に関しては写真が掲載されていることから視覚的要素の補助もあるにはあるが、本は本で独立した確固たる魅力をたたえたものになっている。

しかも読み終わってハイ満足ということにもならず、やはり映画へ誘導されている気がする。この相関関係は強力だ。いままでよりもいっそう観たい気持ちが増している。願わくばスクリーンで。午前◯時の映画祭、次回で終わってしまうみたいだけど上映ラインナップに入れてくれないだろうか……。

ところで共同脚本になるものの、これで私は初めてマルグリット・デュラスを読んだことになる。ふたつめの解説を読むところ、彼女の小説の特徴は私があまり読んでこなかったタイプであり(そもそも読書量がそれほどでなかったのだから当たり前)、調べてみるとどうやら邦訳もかなり豊富なようなので、ぜひ追ってみたくなった。おそらく急いで読んでいくことはままならないであろうから、少しずつ。

ということで、私の認識と感性におけるデュラスという作家の登場は、まことに言祝がねばならないことである。

 

ところで! 『かくも長き不在』を調べたりする流れでAmaz◯nを漁っていたら、なんとジョン・フォードの『静かなる男』のHDリマスターが出るというではないか! これは『バロン』、『チャーリング・クロス街84番地』、『テンダー・マーシー』、『街角 桃色の店』と並んで個人的5傑に入るほど大好きな映画でね、ここらへんはMP切れを起こしたときに必ず観るようにしているんだよ!(オタク的早口) 

それにしてもあの緑豊かなアイルランドの風景を高画質で楽しむことができる日が来ようとは。海外版のBlu-rayを買うかどうか迷っていたこともあるのでひとまず安心した。げに、げに言祝ぐべきことよψ(`∇´)ψゲニゲニ

そういえばここのところ少し映画館から遠ざかっていたり家でもDVDを観たりしていない。なんと不健全であることだろう。(そうか?)ただ公開の近いもので気になる作品ができたり、当然『シュガーラッシュ:オンライン』も外せなかったり、そろそろ足も動きそうである。あまり考えていなかったが、ときおり観た映画についてブログで話題にするのもありかもしれない。自分がどのような記事を書くのか気になる。もちろん書けない可能性もある。オタクは頻繁に語彙を喪うから…。